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いっとう愛おしい休日、始まりは友人のお母様を囲んでの飲茶から。前菜とメインに追加の点心を平らげた後に、小籠包を更に注文すると店員は恐ろしいものを見る目。胃袋の先に小宇宙。友人がお母様を見送る間に、もう1人の友人とBALで買い物をする。無印で販売されていたアルミの器を見て「インドの小学校......」と彼女が呟く刹那、全てを悟った。ジャグを見て「スイスの民族衣装を着た少女が朝に絞ったヤギの乳を淹れていそう」だとか、ふたりだけが理解できていればいい話でほげほげと笑う。
友人も合流して藤井大丸へ。小籠包の形に変形したお腹を抱え、ウィンドウショッピング。Ray BeamsとUNITED TOKYOがいっとう素敵で、溜息をつきながら幾度かの往復。クラブイベントと旅行用に、小さめのポシェットを買う。もう一歩も動きたくなくてHERBSでお茶をした。3人でミルクレープの巨大な山へ登頂。フォークで分け入る度に、弾き出されてくるメロンと黄桃が美しかった。
もう何も食べたくないし飲みたくもないけれど、寒さをしのげる屋根を求めていると目の前に映画館。U-nextへのトライアル登録で映画チケットが貰えたので、恩恵をたゆたい「ジョーカー」へ。全く予備知識も無いままに、陰鬱さに両頬を殴られる。やるせなさを掻き消すように、上映終了後のロビーで昔に好きだった漫画の話をして今月末の旅行の計画にコストコへ行く予定を立てていた。ジョーカーが怖かったのではなくて、私たちの誰しもにジョーカーになり得る因子を感じてしまったことが怖かった。
「映画館の外がゴッサムシティだったらどうしょう」怯えながら夜の帳を歩く、繋いだ手は温かい。
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高校時代からの大切な友人が踊る発表会へ。曇り空の中を、差し入れの生風味茶漬け詰め合わせと共に駆けてゆく。長らくバレエを習い、全国大会常連のダンス部に在籍していた彼女は周りとどうしたって違っていた。指の先から爪先までとうとうと、彼女の努力の軌跡が流れてゆく様をじっと見守る。
終演後に友人のお母様が声を掛けてくださって、友人は不在のままふたりでパーラーに入る。数回しか顔を合わせたことはないけれど、ふたりでひたすらにいかに彼女が舞台の上で輝いていたかを話す。ふたりの間には宮殿のようなフルーツパフェ。シャインマスカットと柿のいっとう美味しい季節で幸せ。
友人と出会ったのはNZの小さな町のショッピングモールだった。お互い暇を持て余し、用もないホームセンターをぶらついていると目が合う。人見知りの彼女が、何故だかその時は食事に誘ってくれた。早くひとりになりたい私は、ただただ彼女がパッタイを口にする様子を眺めていた。どうして仲良くなれたのかはピンとこないのに、この6年間で彼女は私の光になった。
私の大切な人たち、どうかいつも光の方向へ。
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子供たちと小籠包は似ている。教室に詰め込まれた彼らからはむわりと湯気があがっていた。立ち込める36.8°の体温を前に、ひたすらに試験監督をする。規則正しく並ぶ小籠包を数え続けていた。